ユニ◯ロの無人レジを作ってみようとして挫折した話

RFIDを使用した無人レジの実践

今更ながらユニ◯ロの店頭で活用されている無人レジに関心を持って、このレジシステムをRaspberryPiなどで安価に再現できないか、と調べて情報収集を行いました。タイトルの通り、他のIoT機器とは別の問題にぶち当たって挫折しまったので、それについて知り得た情報をアウトプットします。

前提知識

無人レジの仕組み

上記のレジでは、商品を入れたカゴを所定の読み取り棚にセットするだけで、機械が商品の内容と価格を自動で算出して、お客に金額を提示するようになっています。この原理は、次の仕組みが活用されています。

  • 商品の値札には、RFIDタグが埋め込まれていること。
  • 読み取り棚にはRFIDのリーダー(読み取り機)が備わっていること。
  • お客がカゴを入れると、読み取り機がRFIDを読み取ることで、カゴの中に何の商品(IDを識別)が、何個入っているか識別すること。
  • コンピュータが商品のIDとデータベースを照合して価格を取得し、料金を算出すること。

従来の無人レジに比べて「バーコードをスキャンする必要がない」というのが大きなポイントとなっています。

これに使用されている値札は、下のような構造になっています。

表面的には普通の厚紙に見えるので気づきずらいですが、紙の間に薄い電極(アンテナ)とICチップが内蔵されており、これが読み取り機からの電波を受信して、チップ内の情報を送信しています。

値札に添付するタグは非常にローコストであり、大量に購入すれば1枚あたり24円程度で済むようです。

また、2018年にはこのような宣言も出ているらしく、再現できれば大きなビジネスチャンスにつけそうだと思いました。

news.yahoo.co.jp

ここまでの知識をもとに「Raspberry PiRFIDタグを使えば、自分でも安価に無人レジが作れるのでは?」と言うことから、調査を始めたのですが・・・。

今回のトライ

今回は、RaspberryPiを使用したRFIDタグの識別をテストしました。購入したのは次の2つです。

左のRFIDリーダーには、サンプルとなるICカードと、RFIDタグが付随しており、こちらにデータの追記をしたり、読み込んだりすることができます。

※ 注意:結論で言うと、これらを購入しても目的は果たせませんでした。また、日本国内でこちらの製品を使用した場合は「試験的な使用」であっても、後述する「電波法」に抵触する可能性があります。当方は一切責任を負いませんので、自己責任でお願いします。

上述の事情もあり、今回は、実践した結果は掲載しません。こちらを使用することで次のような結果が得られる「はず」です。

  • こちらのサイトを参考にすることで、リーダー(RFID-RC522)に付属しているICカードから、個別のIDが読み込めること。
  • 右のUHFタグに対しては、このリーダーでは読み書きはできないこと。

問題発覚

購入してから気づいたのですが、今回の検証で購入した「RFID-RC522」には大きく2つの問題があったことに気づきました。

  • 国内で使用できる、明確な法的根拠(技適)がないこと
    国外の製品であり、発信している磁界強度が明記されていないため、電波法で許可された「微弱無線局(322MHz以下 500uV/m 以下)」の範囲を超えていないことがわからないこと。

  • この製品はHF帯(13.56MHz)のリーダライタであって、一緒に購入した右のUHFタグと互換性がないこと
    そもそも、受信の方式がHF帯(電磁誘導式)とUHF帯(電波式)で異なっており、その点を理解していなかった。

特に、前者に関しては盲点でした。中国製品あるあるですね(T-T

総務省が下図に規定しているとおり、(横軸は13.56MHzと製品ページにあるため)縦軸の磁界強度は500uV/m以内でなくてはならないのですが、この値が製品ページに示されていませんでした。

いくつかネット記事を探しましたが、本製品については「不明」であり「使用しない方が無難」という解釈がほとんどです(参考ページ

(出典:総務省ホームページ

本製品を使用した場合の電波法問題は、こちらの記事で細かく説明がされていますので、参考にご確認ください。

こちらのクリア方法は、以下の2つの製品を使用すること。

www.switch-science.com

ソニーが出しているNFCのリーダーであり、技適もクリアしているらしいです。総額にして¥5,000程度なので、「NFCをやりたいなら」これで良いと思うのですが、そもそもの目的が違っています。後者の話に繋がるので、「HF帯」「UHF帯」の違いについて、以下に記載します。

そもそも必要だった知識(RFIDとは)

RFIDとは「Radio Frequency IDentification」の略称であり、無線通信を使用した個体識別技術の総称です。身近なものでは、Suicaや運転免許証ICカード、入室カードなどにも使われています。

RFIDの種類 ①アクティブ型とパッシブ型

RFIDの受信デバイス(タグ)には、アクティブ型とパッシブ型が存在します。

  • アクティブ型:タグ自ら電波を出し、情報を発信するタイプ。身近なところでは、AirTagなどが該当します。電池を内蔵しており、パッシブタグに対して長距離の通信が可能ですが、一定期間の使用で、電池の交換が必要です。

  • パッシブ型:読み取り機(リーダー)からの電波を受けて、それに応答することで情報を発信するタイプ。電力を必要としません。読み取り機との間で、電磁誘導(コイルによる発電)して発電して駆動することから、アクティブ型に比べると遠距離での通信ができません。

アクティブ型はそれ自体に発信機器が必要となるため割高で、電池交換も必要であるため、今回のような用途には不向きです。

以降では、今回の対象である「パッシブ型」を中心に話を進めます。

RFID(パッシブ型)の種類 ②電波の種類

パッシブ型のRFIDには、通信原理は周波数帯に応じて、いくつかの種類が存在します。下表で分類していますが、前述のICカードSuica等)は「HF」上記の無人レジは「UHF」に該当します。

電波法の表示 通信原理 周波数帯 通信距離 RFIDの用途
LF
(長波)
電磁誘導 ~135kHz ~10cm スキーゲート、リフト回数券 、自動倉庫、食堂、回転すし精算、イモビライザー(自動車盗難防止システム)など
HF
(短波)
電磁誘導 13.56MHz ~10cm 交通系カードシステム、行政カードシステム、入退室管理システム等、NFCなど
UHF
(極超短波)
電波 860~960MHz ~10m RFID、商品検品・仕分け、在庫管理、物流管理、コンテナ内状況管理などなど

余談ですが、技術用語でよく出る「NFC」は、HFのRFIDを使用した電磁誘導による近距離無線通信技術であり、今回の対象とは異なります。詳細は以下を参照ください。

【参考】RFIDとNFCの違い、特徴とは?UHF、HFなど分類もふまえて解説

「非接触」だけど数cm距離で「接触

2001年にSuicaが導入されて以来、HF帯を使用した非接触カードは広く普及しており、我々の身近でも入室カードや、ICパスポートといった「非接触」カードとしての活用がされてきました。

しかし、HF帯は検知距離が短いため、「非接触」と謳いながら、実態として読み取り機から数cmの距離で「接触」させることが前提となっています。

この解決として、UHF帯を使用すれば、検知距離は最大で10m(規格上)となっていることから、読み取り機から離れた「非接触」の状態であっても、個体の識別が可能です。また、距離が離れていることで、複数個体をまとめて読み取ることもできるのです。






・・・ここまできて、そもそも購入している機器に誤りがあったことに気づきました。上表の通り、HF帯とUHF帯では、受信するための方式が全く違うので、通信できるわけがないんですよね・・・。

一般的にはどうなのよ?

こちらのサイトによれば、UHF帯のリーダーを使用するには、大きく次のいずれかを使用するのが一般的なようです。

  • 電波強度 250mW以下のリーダーを使用する(申請不要)
  • 電波強度 1Wのリーダーを使用する(総務省への申請が必要)

これらをざっとネットを調べてみましたが、安価に入手できる製品はありませんでした。国内の製品ではUSB接続が前提であり価格帯は¥50,000前後。

paypaymall.yahoo.co.jp

安価なGPIO製品もありますが、いずれも海外製であり、出力電波強度が明記されていないことから、下手に手を出すと今回と同じ轍を踏みそうです。

以上のことから、今回は購入した部品類は勉強代として諦めました。海外の製品に手を出して失敗するってのはあるあるなんでしょうが、法務に絡むと後が怖いので、皆さんもよく注意して使用しましょうね。